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「フレデリック・バック傑作選」

(2007年07月29日)

カナダのアニメーション作家、フレデリック・バックの傑作選のDVDが出たので購入。
以前にLDで出ていたのを持っていたので、いっそDVD版の全集を買っても良かったのだけど、値段の面でどうにも折り合いが付かなくて今まで購入していなかったのだ。

収録されているのは「木を植えた男」「大いなる河の流れ」「クラック!」の3本だが、LD版に収録されていた他の作品を見た限りでは、やはりどこか習作のような印象をぬぐい切れていない作品ばかりなので、これで充分だろう。

フレデリック・バックと言えば巷間ではやはり「木を植えた男」ということになるのだろうし、現時点での最新作を誉めるべきであるという発想の人からすれば「大いなる河の流れ」と言うことになるのだろうが、僕としてはやはりこの中では最も短くてユーモラスな「クラック!」を推したい。

技法的にはもちろん後年の作品の方が素晴らしいのだが、「木を植えた男」はブフィエ老人の功績を一方的に称えるだけなのが気にかかる。これが本当の話だったらそのまままじめにすごいのだが、実はそういう老人は存在しなくて、創作だったりするので、それが丸ごと弱点になってしまう(あの地域に植林をして環境を改善したのは史実なのだが、個人で行ったのではなく集団で組織的に行ったらしい。)もちろん、たとえこの話が嘘であったとしても、この作品に注ぎ込まれたバックの熱意と技術の数々は、それはそれで賞賛に値するものなのだが(この話が創作であることをバックは制作途中に知り、やはりかなり苦悩したらしい)、おそらくこの作品に感動した人の大半は、この話が完全に創作であると言う事実を越えては、この作品を好きになれないはずであり、その点は間違いなくこの作品の弱点だ。そして「大いなる河の流れ」はもはや鬼気迫ると言っていいぐらいの自然の細密描写には感服させられるのだが、青いと言っても良いぐらいの文明批判が直接的すぎて鼻につく。

それに比べると「クラック!(フランス語で「ばきっ!」という擬音を表すらしい)」は、木こりの若者によって森から切り出されて造られた揺り椅子の視点から、ある家族とそれを取り巻く文化の誕生と成長、そして消滅を、ナレーションなどの説明を一切交えずに、確かな技術に裏打ちされた想像力豊かな描写だけで連綿と追い続け、最終的には人間の生そのものを、その死と罪業や悲哀も含めて称揚してしまうのだ。これをノーマン・ロジェの軽やかで多彩なメロディとともに、ユーモアと文明批判を交えながらわずか15分でやってのけてしまうあたり、むしろ後年の「大作」よりも遙かに老獪で神懸かり的な印象を受ける。それはむしろ、この作品が彼の遺作だったらどれだけ美しいだろうかと思ってしまうほどで、第54回アカデミー賞短編アニメ賞受賞は伊達ではないと感じさせてくれる。「木を植えた男」ではないが、たった1個の不屈の精神が、かくも崇高な作品を生み出しうるのだ。

日本のアニメだけを、アニメのすべてだと思っている人だけでなく、人間の可能性を知りたい人には是非とも観ていただきたい作家の一人である。

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