浅草のとんかつ屋「ゆたか」に行く。名店と聞いていたのだが、行ってみると細い通りにあるこぢんまりとした店で、浅草に馴れない僕は探すのに苦労してしまった。
店内は平日の昼前で年配の客しかいなかったのだが、いかにも浅草らしく品のある風情の客が多くて、スポーツ新聞や下卑た芸能週刊誌、昼のバラエティーを流しているテレビなどといった、街の定食屋の定番アイテムとはまったく無縁の、静かな空気が流れていた。なんでも池波正太郎などの文人も通い詰めた店らしいのだが、さもありなんという感じである。
注文したのはロースカツ定食。
会社の近くに秋葉原界隈では名店との誉れも高い「丸五」があって、そこの味は結構気に入っているのだが、この店のロースカツ定食は、ごま油で揚げる「丸五」とはまた違って、ラードで揚げてあるのが特徴のようだ。肉の厚さと脂身の比率、揚がり具合、いずれもちょうど良いバランスで、衣にはどうもシナモンが少し混ぜてあるらしく、そういった点にも浅草らしいさりげない「粋」を感じさせる味だった。ラードで揚げてあるおかげで、食べてからしばらくはお腹がもたれたような気もするが、単にライスに大盛りを注文したのが原因かも知れない。浅草は明らかに他の東京の街とは違う、今でも昭和の空気がわずかに感じられるところなので、気分転換に訪れるにはちょうど良い街だと思う。近所に寄ったときにはまたこの店に来ようと思った。
